【宗務改革】
新型コロナウイルスの感染拡大により、ますます喫緊の課題となった宗務改 革もまた、次世代に教えを受け渡していく宗門の使命を果たすべく、「慶喜奉讃」 「知恩報徳」のいとなみとして、衆知を集め、実行可能なところから後戻りする ことなく着実に進めて行かねばなりません。 宗務改革の推進は、教区改編・門徒戸数調査・財政改革を主として進めてま いりましたが、2021年度より行財政改革を包含して積極的に取り組むこと であります。 この行財政改革は、時代社会に対応し、次世代に教えをつないでいくため、 持続可能な基盤整備を行うべく、3つの柱をもって取り組んでまいります。 1点目は、教区・組の特性を大切にしながら1ヵ寺の活性化を願い、すべて の宗門の機能を「人の誕生と場の創造」に収斂してまいります。2点目に、I T活用等による徹底的な事務効率化を進め、「教学振興と教化推進に注力でき る機構への再構築」を図ります。そして3点目として、厳しい社会状況を見据 えて、「組織機構の縮充化」を図るものであります。 この改革における財務方針等の詳細については、財務長演説に委ねますが、 組織機構・教化・財務における主な取り組みを述べさせていただきます。 まず組織機構の面では、特に教区改編について、九州教区における教区寺院 活性化支援室の実働や、岐阜高山教区における別院を中心としたエリア教化の 実働等、着実な歩みが進められております。 また、奥羽・仙台・山形の東北3教区においては、2022年7月に新教区 が発足いたします。さらに、富山・高岡及び小松・大聖寺教区においては既に 合意書が取り交わされ、三条・高田教区においても今月末に合意書が取り交わされる予定であり、いずれも2023年7月に新教区として発足することであ ります。 そして、能登・金沢、長浜・京都及び山陽・四国教区においても、改編に関 する協議が鋭意なされております。 各教区において、新教区発足後の歩みや、改編に向けて、真摯に且つ丁寧な 協議を重ねていただいていることに、深謝申し上げます。 その他、機構面においては、中央宗務機関の局制への改編、教化拠点として の教務所の役割の見直し、総合的な人事計画といった、宗務機構の最適化を企 図しております。 次に教化の面では、特に本山・教区・別院・組の明確な役割分担と、それに 基づく教化研修計画の策定について、慶讃法要に向けた中期教化研修計画にお ける3期9ヵ年度の取り組みが2022年度に区切りを迎えることから、新型 コロナウイルスの影響による計画の変更も見越し、2021・2022年度の 2ヵ年度を一体化した計画といたします。加えて、教化委員の任期3ヵ年度を 1スパンとして計画を立案・実施している教区の実情に鑑み、慶讃法要後の教 化研修計画は、2023年度から始まる教区教化委員の任期に合わせ、以降3 ヵ年度を一体化した計画を恒常化させ、本山・教区・組の教化研修計画に、連 動性や一体感をもたらすことを期するものであります。これに関連して、既に 教区や組と重複していた本山主催研修会は、廃止する方向性をもって、予算編 成においても、その方向に舵を切っていることであります。詳細については、 教化研修計画をご覧ください。 その他、教化面においては、本山教学研究機関と教区機関との連携、各種関 係団体との関係性の見直しといった、1ヵ寺の更なる活性化に寄与し、未来へ 教えをつなぐ、教学振興と教化推進に向けた環境整備を企図しております。 次に財務の面では、特に2022年2月に実施する第4回全国門徒戸数調査 について、調査結果の数値を経常費御依頼の基準として、これまで以上に反映 させるべく、御依頼割当基準策定委員会を設置して取り組んでまいります。 その他、財務面においては、予算規模の明確化、歳入構造の変成と交付金制 度の見直し、財政調整基金(仮称)の新設、一般会計と特別会計の統合による 宗派会計の再編成、新たな宗派財源の確保といった時代状況に応じた予算規模 を目指し、公平で透明な財政制度の構築を企図しております。 これらの改革は、2023年の慶讃法要を待つことなく、当局の責任におい て、実行可能なものから順次進めてまいります。そのために、本年3月には行 財政改革推進準備室を設置いたしました。今議会においては、行財政改革をあ らためて宗務改革の重要な柱の一つと位置づけ、一体のものとして推進してい くために、宗務改革推進本部の設置を提案するものであります。また、然るべき時期に内局巡回等を実施し、行財政改革の目的を明確化し、 宗門内での共有を図り、持続可能な宗務機構への変革に向けて、信頼感を醸成 していく予定であります。 かつて宮城顗先生は、「教団の組織における中央というものは、要するに、 地方が地方として活きた歩みをすすめてゆくための場・パイプだと私は思って います。中央と地方をつなぐパイプではなく、地方が活きた地方となるための パイプとしての働きをすることのほかに、中央としての存在意味はないのでし ょう」と述べておられました。(『教化研究』第75号) このたびの行財政改革の推進は、本山という中央機構のあり方を変えていく ことのみならず、教区・別院・組が特性を発揮するために、どこまでも1ヵ寺 が聞法の道場として活性化していくことを願い、成し遂げなければならない転 換です。
【共創環境の充実と新たな教化体制の構築】
昨年9月に全国の組長寺院を対象として実施した「新型コロナウイルス感染 症の影響下における寺院の教化活動の工夫に関する調査」の分析では、以前か ら指摘されていた仏事の簡略化、門徒との関係性の希薄化や寺離れが顕著に現 実のものとなった一方、「お寺にお参りしたい」という声が多く寄せられてい たことであります。感染症の影響下にある不安や孤独から、人と会することの 日常の尊さといった、寄り合って生きる人間の原点に回帰していける場が、寺 院であるということを再確認したことであります。 僧侶と門徒が対話を重ね、感染対策を施して聞法の場を再開してきた寺院 や、寺報などの文書伝道を始められた寺院が多くあります。むしろ感染症の拡 大によって、あったものがなくなった状況において、悩み迷うことを通して、 寺院の存在意義や共創環境は増したように思うのです。社会や門徒の声を聞 き、寺院が潜在的に持つ共創力を活かして、継続可能な聞法の場づくりを、僧 侶と門徒が共に創る環境にあるということが、寺院の強みであります。 また、1ヵ寺の活性化を目指していく取り組みにおいては、「一人の人、一 つの寺を大切に支える宗門」として、教区寺院活性化支援室の設置等によっ て、1ヵ寺を支える体制づくりを進めてまいります。 その意味において、昨今の特徴を挙げますと、組で推進員教習等の共同教化 に資する教化事業が行われてきましたが、寺院に同朋の会が出来ていかないと いった長年の課題に応えていくため、複数の教区において、教区教化委員会内 に「寺院運営相談室」や「組教化の推進に関する機関」の設置が検討され、当 該機関が「教区寺院活性化支援室」の役割を担っていく傾向にあります。組や 寺院の意見等を汲み上げていく機関を設置される傾向にあることは、「組を基軸とした教化」、「1ヵ寺の活性化」の具体として、非常に的を得た取り組みで あります。 また、新型コロナウイルスの影響により、急速に普及したオンライン化によ って、教化事業の情報が教区を超えて流通し、共有される時代になりました。 これにより、教区を超えた教化事業の開催が可能となり、これまで過多の傾向 にあった事業を、連区内や教区間の持ち回りで開催していくことが検討されて います。教区に伝統されてきた事業を大切にしながらも、事業の「選択と集 中」を、「連携と共有」という方法をもって具体化されようとしていること は、学びの機会や場を共有することを通して、人の出会いが拡がり、全体の質 的向上にも大きく寄与するものとして期待されることであります。 これらの動きは、教区改編や、教区寺院活性化支援室の設置によって、1ヵ 寺の活性化に向けた教化拠点としての教務所機能の充実を期する、行財政改革 と軌を一にするものであります。大きな行政単位にあっても、きめ細やかな教 化支援をしていける体制づくりを、各現場がその役割と特性を発揮して進めら れていることであります。
【慶讃事業の推進】
慶讃事業は、「宗門の基盤づくり-新たな教化体制の構築-」、「本願念仏に 生きる人の誕生と場の創造」、「あらゆる人びとに向けた真宗の教えの発信」と いう方針のもとに、5つの重点教化施策を4ヵ年度に亘って推進していること であります。しかしながら、新型コロナウイルスの影響により、当初の計画通 りに事業を進めることが難しい状況にあるため、事業実施の可否を慎重に見定 めて再編成したことであります。 まず、青少幼年教化については、子ども会をはじめとする仏事の場が、ひと りの青少幼年と出あう場となるよう、現場に応じた教化支援となることを期し て、各種の講習会や支援事業、教化教材の作製や改訂等を進めてまいります。 また、全教区から推薦された方々と、青少幼年教化の基本姿勢を学ぶ学習会 を開催し、人の養成に取り組みます。 次に、教師養成については、より実践的な学びを導入するべく、「教化学」 にグリーフケアの学びを導入する取り組みを進めております。新型コロナウイ ルスの影響で1年延期していた、養成校の教員を対象とする「真宗とグリーフ に学ぶ研修会」を本年5月から開始しました。研修会終了後には、具体的な実 施に向けたフォローアップの取り組みを進めてまいります。 また、通信教育制度については、養成校を交えた会議を設置し、教師資格取 得後の研修制度についても、教区と連動した制度構築を目指して協議を開始い たします。 次に、寺院活性化については、新型コロナウイルスの影響により、「元気な お寺づくり講座」や現場に赴いての各種支援が困難な状況にあるため、各種支 援員の基礎・専門講習といった、人の養成に注力していくとともに、先述の 「新型コロナウイルス感染症の影響下における寺院の教化活動の工夫に関する 調査」の分析結果から見られる、寺報作成などのニーズに合わせたオンライン での教化支援に取り組んでおります。今後も支援員の養成に取り組むととも に、現場の要望に応じた教化支援を継続してまいります。 また、2020年度に設置された九州教区の寺院活性化支援室は、2021 年度から取り組みが本格始動し、教務支所に配属されている教化相談員も支援 員講習を受講していくことになっております。 本年7月には、大垣教区においても支援室が設置され、その他の教区におい ても、支援室の設置について検討が始まっております。教区の特性に応じた支 援室のあり方を、教区の方々とともに検討し、取り組みを進めてまいります。 次に、真宗の仏事の回復についてであります。報恩講をはじめ、朝夕のお勤 めや通夜・葬儀・法事など、あらゆる仏事の簡素化が進んでおります。真宗の 仏事の基本は、御本尊を中心とした生活と仏法聴聞の場にあります。次世代に 御本尊のある生活を伝えるべく、パンフレットや『正信偈書写本』等を活用し て、自身にとって「仏事」を確かめる場の創出を働きかけてまいります。 また、御本尊の手渡しをはじめとする、真宗の仏事の回復に向けた教区事業 への助成を継続し、地域の特性を活かした施策が展開されていくことを願うも のであります。 次に、真宗本廟奉仕上山促進については、奉仕施設独自の感染予防ガイドラ インに基づき、定員を減じた上で、検温・消毒等の対策を徹底し、すべての上 山団体を「慶讃法要お待ち受け奉仕団」として受け入れてまいります。 また、慶讃法要に向けたテーマ別の本廟奉仕や、法要・讃仰期間中における 本廟奉仕の充実に向けた取り組みを進めてまいります。 なお、慶讃法要の団体参拝に関しては、2021年度に団体参拝受入センタ ーを本廟部内に設置し、参拝計画を確定させ、教区ごとの参拝席抽選会へと進 めてまいります。
【是旃陀羅‐念仏者としての課題‐】
念仏者として自身が問われ続ける重要な課題として、『仏説観無量寿経』「禁母 縁」における「是旃陀羅」の課題があります。2019年度の宗会において、2 022年3月の水平社創立100周年までに一定の見解を示せるよう、議論を 深めていくことを表明いたしました。 現在、是旃陀羅に関する手引書の作成に資する取り組みとして、教学研究所と 解放運動推進本部の合同で、「『観無量寿経』に聞く研究会」を定期的に開催しております。 また、2020年度開催の「部落差別問題等に関する協議会」では、是旃陀羅 問題に関する各教区からの意見を整理し、協議会における議論の方向性を定め るため、協議会参加者から選出した「企画会議」を設け、意見をまとめていく予 定であります。 いずれにいたしましても、念仏者たらんとする宗門の一人ひとりに、是旃陀羅 の問題が「私の課題」として共有される取り組みを進めてまいります。
【都市教化】
都市教化は、これまで首都圏教化推進本部を中心として、「親鸞フォーラ ム」等の教化事業、離郷門徒や潜在門徒との更なる関係構築を目指した仏事代 行執行制度などに取り組み、近年では、これまでの知見を活かし、大都市圏を 抱える大阪や九州教区との連携を進めてまいりました。 そのような中、殊に九州教区における教区改編の歩みの中では、福岡市に離 郷門徒の方々への教化拠点の設置が切望され、この5月からは、福岡教務支所 「東本願寺 仏事サポートセンター福岡」が市内中心部に設置されたことであ ります。 首都圏や福岡・大阪に限らず、全国的な過疎過密の問題も視野に入れなが ら、引き続き、都市教化の課題に対する総合的な議論を進めつつ、首都圏にお いては、全国各都市部のモデルとなるような先駆的な事業の策定と情報発信に 努めてまいります。 【男女共同参画】 宗門運営に女性の参画を推進することを願い、2015年に制定した「男女共 同参画推進に向けた組門徒会員選定に関する特別措置条例」をもとに、本年3月 に制定から3回目となる組門徒会員の改選が行われ、5,531人、率にして3 2.9%の女性門徒会員が誕生しました。男女両性で形づくる教団の実現に向け て一歩前進したことになります。今後とも1ヵ寺の現場をはじめ、組・教区全体 で、男女共同参画の具現化に向けて取り組みを進めてまいります。 なお、宗務の現場では、慶讃事業と軌を一にする「男女共同参画実施計画」が 実働しております。変化する社会情勢に対応し、性別に関わりなくその個性と能 力を十分に発揮できる教団形成が求められる中、引き続き、宗門の将来像を創造 する重要な取り組みと位置づけ、積極的に推進してまいります。 以上、宗門の将来にとって重大な岐路となる2021年度の宗務執行方針に ついて申し述べてまいりました。
この6月に没後50年を迎えた曽我量深先生は、逆縁が仏教を興すことを、 「逆縁教興」という言葉で表現されました。 宗門運営は、極めて困難な時代に突入しておりますが、我が宗門には、世の苦 悩を自らの苦悩として受け止め、それに応えんがために動き続け、表現し続けて きた、私にまで連なってきた先達の尊い歩みがあります。 宗祖が『教行信証』の最後に、「前に生まれん者は後を導き、後に生まれん者 は前を訪らえ、連続無窮にして、願わくは休止せざらしめんと欲す。無辺の生死 海を尽くさんがためのゆえなり」と、『安楽集』の文を引かれた精神の具現こそ が我が宗門であります。いつの時代も「人の連続性」が途絶えることなく、同朋 会運動によって時代に応え、同朋社会の顕現に努めることを使命としてきたこ とこそが、我が宗門のいのちであります。 新型コロナウイルスの感染拡大によって今、念仏者として問われる課題と迫 られるさまざまな変革は、いずれも避けることができないものであります。しか し、それは同時に、新しい宗門の形を創造していく機会を、今を生きる私たちが いただいたということであります。正に「逆縁教興」であります。 幾多の変遷を重ねてきた宗門の長い歴史において、今、この時節に巡り合えた ことに、深い縁を感ずるとともに、それに真向かって宗務を執行していく重い責 任を感じるのであります。 次世代に過つことなく教えを手渡していくため、この宗門に属し、この時に出 あえた慶びと覚悟を共感・共有し、ともに果敢に歩みを進めて行こうではありま せんか。
議員各位におかれましては、提案いたしました全案件について、慎重に審議 を重ねていただき、全会一致をもってご可決賜わりますようお願い申し上げま す。 以 上