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日本の政局について

森喜朗元首相が「血まみれ」で倒れ、集中治療室へ…一体、何が起きたのか

2022-08-04
「ポスト安倍」をめぐる内幕
photo by Gettyimages(KODANSHA)

集中治療室に運ばれた

森喜朗元首相といえば、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の前会長で、清和会(安倍派)の元会長だ。

安倍晋三元首相が凶弾に倒れた2日後の7月10日夜、血まみれになって倒れ、集中治療室へ運ばれたことがわかった。一体、何が起きたのだろうかーー。

まず、森元首相の党内におけるポジションを確認しておきたい。森元首相は'01年の首相退任後、小泉純一郎氏、安倍晋三氏、そして福田康夫氏など自派閥の政治家が次々と首相に就任したことで、彼らの後ろ盾となっていた。安倍派は、現在、97人の国会議員を擁する自民党最大派閥。安倍元首相亡き後、森元首相は実質的な最高権力者であり、言うなれば「安倍派のドン」だ。

自民党において、最大派閥の動向は、常に政局を左右している。岸田文雄首相が、安倍元首相の突き上げる政策に振り回されていたことは記憶に新しい。

政界において安倍派の次の会長になることは、有力な首相候補になるということであり、森元首相の後ろ盾が必要であるということでもある。今、安倍派では、その座を巡って、目に見えない水面下での暗闘が繰り広げられている。だが、誰が会長に就任すべきかを最終的に判断するのは、「ドン」である森元首相ではないかとされている。

「(7月10日・参院選開票日の夜に)こともあろうに私は風呂場で倒れるんだよ。初めて救急車に乗せられて病院に運ばれた。風呂場だから真っ裸で血だらけ。半分無意識で救急車に揺られたりしているときに思ったのは、これは相当やばい」

「サイレンが鳴る救急車に乗せられて搬送される途中でなんとなく気を失った。集中治療室に一晩入れられたから、翌日の安倍さんのお通夜にはいけなかった」

「退場」を命じられた下村氏

「このことを知った安倍派の議員たちは『森さんがもはや死ぬ気がしなくなってきた』『あと10年は死なないのでは』と話していた」(安倍派関係者)という。安倍元首相の通夜への出席はできなかったが、葬式には足を運んだ。

では、85歳で、血まみれで集中治療室に入りながらも意気揚々な安倍派のドンは、安倍元首相の後継をどう考えているのだろうか。

森元首相は「少なくとも二年か、三年のうちに、五人(松野博一、西村康稔、萩生田光一、高木毅、世耕弘成)のうちで自然に序列が決まっていく」(同誌)と名前をあげた。

この森元首相の発言は極めて大きな意味を持つが、一つ一つ解説していこう。

まず、本来ならあってもおかしくない人の名前がない。それは、派閥会長代行の下村博文氏だ。安倍元首相は、生前に自身の後継として「松野、西村、下村、萩生田」の名をあげていたが、森元首相からは首相レースからの「退場」を命じられたようだ。

森元首相は「みんなの一致していることは、下村博文だけは排除しようということ」「安倍さんは優しいから付き合っていたけど、やっと下村はいかがなものかということがわかってきた」と手厳しい。

岐路に立たされた世耕氏

次に、高木氏と世耕氏の名が新たに加わったことだ。特に、国会対策委員長の高木氏は過去に『「安倍内閣」が踏んだ大型地雷! 「下着ドロボー」が「大臣閣下」にご出世で「高木毅」復興相の資質』と週刊新潮から報じられたことのある人物だ。そんなスキャンダル報道もあって、マスコミの前にはほとんど出てくることがなかった。国対委員長を務めて党務に汗をかく男として、森元首相の評価を上げたのだろう。

自民党参議院幹事長・世耕氏は、「ダークホース」(森元首相)として、存在感を高めている。参議院は、衆議院に対抗意識を燃やしていて派閥とは違うまとまりを見せる場面がある。近年そうした機会は少なくなってきたとはいえ、「衆議院で決めたことをそのまま従いたくない」という意識があるのだ。たとえば自民党参議院のドンであった青木幹雄氏は、参議院を束ねることができたために、小泉政権も含めて隠然たる権力を保持した。「最近まで経世会の参議院議員は、派閥会長である茂木敏充氏のいうことにほとんど耳を傾けなかった」(全国紙政治部記者)ことからも、それはわかる。

ただ、世耕氏は人生の岐路に立たされているようだ。このまま参議院議員を束ねられれば党内で強い権力を持つことになるが、参議院議員のままでは慣例的に首相になれないとされている。衆議院への鞍替えも模索しているが、森元首相は「参院から衆院に行く人は必ずしも成功していない」と指摘していて、「参院に留まったらどうか」と世耕氏に暗に勧めているようだ。

ポスト安倍レースの行方

残りは、官房長官である松野氏、西村氏、萩生田氏の3人だ。この「正論」の論考を読む限り、森元首相は、西村氏と萩生田氏の2氏に注目しているようだが、「(一人一人の議員に)心服を得るようにしなければダメです」とお茶を濁している。現段階で、自分が決めるということはしないのだろう。全国紙政治部記者は、こう打ち明ける。

「5人の集団指導体制であれば派閥内は何となくまとまりますが、政権運営、党内運営について安倍派の誰に相談していいかわからないままでは交渉力を完全に失います。交渉力を失えば求心力を失い、派閥から出ていく議員もでてくるかもしれません。

安倍元首相の四十九日法要である8月25日までは、とにかく静かにしていようという話もありますから、秋にはポスト安倍レースが始まるはずです。候補は、萩生田氏と西村氏に絞られた感がありますが、争いの勝敗が決したからといってどちらかが出ていくと『最大派閥』という大看板を失うことになります。なので、今後二人は『仲良くケンカ』していくことになります」

安倍派のドン・森元首相が登場するのは最終盤であろうか。過去を振り返れば、2012年の自民党総裁選挙では、清和会から町村信孝氏と安倍元首相の二人が候補を出した。いくら安倍派のドンといえども、分裂は避けられないときもありそうだ。萩生田氏、西村氏の今後に注目が集まる。

自民党参議院幹事長・世耕氏は、「ダークホース」(森元首相)として、存在感を高めている。
東京五輪組織委員会の森喜朗会長(右)と安倍晋三首相(肩書は当時)=2019年7月24日、東京都千代田区
安倍元首相が直立して出迎えた(写真:共同通信社)
東京五輪「安倍さんにもポジションを」 森会長(2020年9月17日)
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