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紅花(べにばな)と臭木(くさぎ)。
2021-10-02
紅花(べにばな)と臭木(くさぎ)。
新作能「沖宮」では、それぞれ、あやの長絹と四郎の水衣に使用されています。
初夏に咲く紅花は、黄色から赤色に変化します。ほとんどの植物が茎や根から染められる中、紅花はその花びらが薄紅色から鮮やかな紅色まで染まる染料として、古くから大切にされてきました。染料のほかにも、生薬、化粧品、食品の着色料、油として幅広く利用されています。
紅花の緋色は、「天上の赤」とも呼ばれる高貴な色。12、3歳までの乙女にふさわしい、若々しいエネルギーに満ちています。
臭木は、林縁、河岸、石垣の隙間に生えることが多く、日陰にも耐える落葉小高木です。秋になると、星のかたちをした赤紫色のガクの中に青い実がなります。その実を集めて炊き出すと、無媒染でも鮮やかな空色「水縹(みはなだ)色」に染まります。
昔、北宋の8代皇帝・徽宗(1082~1135年)は、理想の青色のことを、雨上がりの雲の間からのぞく空の青のような色という意味で「天青」と言ったそう。臭木からいただく青色は、まさしく天上の色と言えるでしょう。若くして島原の乱で亡くなった天草四郎の霊を表現するのにふさわしい色です。